夏休みがおしえてくれる  |  davinci

 

まさに釈迦に説法みたいな感じですよね。すいません……)。それで、「京ちゃん」が出てくるなら「ヨシダさん」もまた出てきてもおかしくないなと思って、次回かそのつぎくらいに登場しないかなと実は期待しているんです(ところで連載はいつまでつづくんですか? 第何回までって、すでにきまってるんですかね? 本誌での連載が終わって、次回からウェブでって書いてあったのでネットで探したのですが、どこにもみつからなくって心配していたのですが、とりあえず再開されてよかったです)。
 最初の手紙で書いたように、『POKKA POKKA』を読んだときに、この「ヨシダさん」っていう登場人物のモデルはわたしじゃないかと思ったんです。もちろん、一〇〇%そうだといいきれる根拠はありませんが、そうじゃないかなと思わされるところがいくつかあったのでそのように思ったのですが、正直、最初は戸惑いました。不思議な感じがしました。

でも、もしこれが本当にわたしをモデルとした人物であるとしたならば、やっぱりうれしいなと思いました(もちろん、本当のところは中川さんにしかわからないわけですけど)。
 現在連載中の小説に話を戻しますが、今回の作品は、ひとつの回のなかにメインとなる登場人物が出てきて、おなじ回の話のなかに出てくるその友だちや恋人が次の回の主人公になっていくっていう構造じゃないですか。それって、すごくおもしろいですよね。それで今月の頭にアップされた連載第四回目では「田辺」の恋人の「美佐子」が主人公になっていましたが、その「美佐子」の知りあいという小説家の人がつぎの章の主人公だと思ったんですけど、どうでしょうか?(今回はほかにそれらしき人物が出てきませんでしたもんね)
 それで、その小説家の「長谷川晃一」って人物のモデルは、やっぱり中川さん自身なのかなあと思いました。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 ところで、中川さんの元には、わたし以外の読者の方からの手紙もたくさん届いていたりするのですか? もしあったとして、返信を書かれたりするのでしょうか? と、こんなことを書いたからといって、わたしへの返信を急かしているというか、それを期待しているわけではないんですけど(それに、さっきも書きましたが、そもそもわたしの住所をお教えしていませんもんね)、そうはいいながらも、やっぱり中川さんからのお返事が来たりしたらうれしいだろうなあとは思います。だから、実際にお返事が来る来ないはべつとして、こちらの住所をお教えしておいたほうがいいかなと思ったりもするんですけど、そうしちゃうと仮名で手紙を送っている意味がなくなるというか、わたしの正体がバレちゃいそうな気がするというか、たぶんバレちゃいますんで、申し訳ないんですけど、やっぱりそれは控えさせていただきます。

もしそうだとして、「長谷川晃一」の次の回の主人公が「ヨシダさん」だったら、いいんですけどね。って、自分で書いたことですけど、「いいんですけどね」って表現はちょっとおかしいですね(なんだか「ヨシダさん」が自分であることを確信したうえでの発言みたいで……)。すいません。でも、そのへんのことも全部中川さんはすでに構想済みなんでしょうか? わたしは小説を書いたことがないのでまったくわかりませんが、書きはじめたときからラストまで全部構成されているのでしょうか? 仮にそうじゃないとしても、一、二回先のことくらいまではすくなくとも想定されていますよね。そうであるならば、すでにきまっていることにたいしてわたしはあれこれと仮定を立てて、その内容を作者である中川さんに発表しているわけですけど、それってさっきもいいましたけど、まさに釈迦に説法みたいなもんですね。すいません。

 

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 相変わらず身勝手で、独りよがりな内容の手紙であったが、不思議と腹は立たなかった。というか、ここまでくるとネタになっているというか、これは本当に小説のネタになるのやないのかしらなんてことを思っているところへ、Sさんが戻ってこられた。
「なんかいいこと書いてありましたか?」ひとりでほくそ笑んでいたぼくを見て、正面の席に坐ったSさんが尋ねてくる。
「いいことは特に書いてないですし、むしろ失礼とまではいかないとしても、けっこうろくでもないことばかり書いてありますね。なんか普通のファンレターとは、ちょっとちがった感じです。だから、ちょっと頭がおかしい人なんかなあと一蹴することもできるんですけど、見方を変えるとおもしろかったりもするんですよ」
 そういったあと、前回のフジタエリコさんからの手紙のことを説明するとともに、いま手元にある手紙をSさんに見せてみた。

 でも、実際にどうなるかはひとまずおいておくとしましても、やっぱり双方向に開かれた関係になったほうがいいようにも思いますし、すくなくともわたしはそっちのほうが断然うれしいので、とりあえず住所は無理なんですけど、わたしのメールアドレスを書いておきます→▲▲▲▲▲▲▲▲▲@yahoo.co.jp(フリーメールですいませんが、もしよかったらこちらにご連絡ください)
 それでは、また。来月以降の連載も期待しています。
                              フジタ エリコ

 

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この女の子が小説の展開を予想というか、こうあったらいいのになみたいなことを書いてるじゃないですか。その書いてるとおりに原稿を修正していっても小説にはならないから、もちろんそんなことはしないんですけど、女の子が手紙に書いたことのニュアンスというか方向性をうまいこと小説に取りいれて、なにか小説に新しい動きがつけくわえられへんかなと思ったんですよ。この手紙の女の子にしてもそうですけど、どうしても小説の内容と実際にあったこととを混同して作品を読むって傾向がすくなからずあるような気がしますので、そういったことを逆手に取るというか、なんかうまくいえないんですけど、そもそもこの手紙のフジタさんって人も勝手に自分がぼくの小説のモデルであるといい張ってて、その事実誤認のもとにいろいろ勝手なことをいっているわけですけど、その虚構というか妄想を脚色してもともと虚構であるところの小説にぶちこんだら、

「たしかに、けっこうむちゃな感じのこと書いてますね」
「この人ただ単に感想を書くだけじゃなくて、いま連載中の作品の次回の予想というか、こうあったら私(わたし)的にはうれしいな、みたいなことを書いてるでしょう」
「しかもその予想というか願望の根拠が、自分がナカガワさんの前回の作品の登場人物かもしれないってことですからね」
「そうなんですよ。それだけで考えたら、かなりやっかいな人なんですけど、この人の手紙にのっかって、いま連載中の小説にちょこっとその内容を反映したりできないかなあ、なんてことをいまちょっと思ったりしたんですけどね」
 一瞬の間があったあと、どういうことですか? とSさんが尋ねてきた。
「具体的にどうしようっていう明確なものがまだあるわけではないんですけど、いまもいったように手紙のなかで

 

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

「それだけ余裕を見ていただければ、たぶん大丈夫だと思います。まあ時間はあるに越したことはないですけど、一回の掲載分がそれほど多いわけでもないですし、いまあるやつを活かしつつですから、なんとかなると思います」といって、笑ってみた。
 ほかの仕事の量と締め切り日までの日数を考えあわせてみると、それほど余裕があるわけでもなかったが、とても無理な日程でもなく、まあなんとか大丈夫だろうと思う。
「いまはまだちゃんと考えてないからあれなんですけど、こうしようってのが見えさえすれば、書くのはそんなに時間がかからないと思うんですよ。大まかな感じですけど、とりあえずいま考えてるのが、絶対にこの手紙のフジタさんが喰いついてくるような内容にしようってことで、次回掲載分を読んだフジタさんから、すぐにまた手紙が来るようなものにしたいんです。

マイナスとマイナスを掛けたらプラスになるみたいな感じで、本当のことが書けるというか、おもしろい感じの小説になるんじゃないかなあなんてことを考えてみたんですけどね」
「それ、おもしろそうですね」とSさんが笑ったあと、すぐに真面目な顔になり、「ということはあれですよね、もしいまおっしゃられたことを実行するとしたら、いただいてる原稿を手直ししていくということですよね」
「そうですね。先々のぶんはなんとでもなるとして、次回掲載するぶんって、どれくらい時間あります?」
「本誌での連載とちがってネットだと更新日がフレキシブルですので、わりと融通をきかせられると思います。なので原稿いただけたら随時アップみたいな感じも可能ですし、とりあえず次回のアップ予定日が来月の八日ですので、最悪その前日とかでも大丈夫ですよ」とSさんがいった。

 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 

 具体的な構想をねっていたわけではないが、しゃべりながら自分でもなんだかよくわからないけどおもしろいものができそうやなあ、なんてことを漠然と思ったりしたんだけど、まったく余裕がないわけではないけど実際問題としてあまり時間はなく、そのなかでほんとに満足いくもんができるのであろうかとちょっぴり不安になったりもしたんだけど、マイナス要因を考えだすとそんなものは切りがないわけで、それを考えることによって事態が好転してくれればいくらでも思索にふけるのであるが、そうではないんだからそんな無駄なことをするのはよして、まあなんとかなるでしょう、と前向きな姿勢で大きく構えることにした。
「となってくると、その手紙の女の子が返事をしてくるとして、当然それ以降の小説の展開も変わってくるってことですよね」

そしたら、たぶんというかほぼ確実に彼女は連載中の作品について書いた手紙をまた送ってくるでしょうし、もしかしたら今回とおんなじようにつぎの展開について予想めいたことを書いてくるかもしれないじゃないですか。それで、もしそういったことを書いてきたとしたら、またそれを元ネタみたいな感じにして、そのつぎの回も手直ししていこうかなと思ってるんですけどね」
「ほんとにそうなると、けっこうおもしろいことになりそうですね」
「まあ実際のところ、彼女がこっちの思っているような反応を示してくれるかどうかもわからないんでなんともいえないんですけど、すくなくとも彼女が喰いついてくれるような内容に手直ししてやろうと思ってますし、これまでの行動のパターンからいっても、その確率は高いんじゃないかなと思っていたりもするんですけどね」

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 

「そうですね。ただ、すでに完成させているぶんがあるんで、そこでの流れというか表現しようとしていることから大きく逸れることはないと思うんですけど、その外部から来たものを小説のなかに取りいれていくことによって、いい意味でいまあるものから逸脱していければなあと思ってるんですよ」
「こっちの思惑どおり、この女の子がまたおもしろい返事を送ってきてくれたらいいんですけどね」
「いまふと思ったんですけど、なんの疑いもなくというか当然のことのように、このフジタエリコって人が若い女の子っていう前提で話していますけど、もしかしたらおばさんかも知れませんよね。もっといったら、男かも知れないわけじゃないですか。若い女の子っぽく手紙を書くことくらいはそんなに難しいことではないように思いますし」
「そういわれれば、たしかにそうですね。仮名だし、手紙の相手が若い女の子じゃなくて実はおっさんだったていう可能性を完全に否定することはできませんもんね。

でも、もしそうだとしたら、それこそ『POKKA POKKA』のヨシダさんみたいな感じですね」といってSさんは楽しそうに笑った。
「ほんとにそうですね。んで、いまふと思ったってさっきいいましたけど、それはなにを思ったのかといいますと、この手紙を書いてる人が、若い女の人でも中年のおっさんでもまあ誰でもいいんですけど、その人がぼくにこんな手紙を送ってきたのは、その内容にぼくが反応して、そこで考えたりしたことを小説に反映するんじゃないかってことを想定したうえで送りつけてきたんじゃないかってことなんです。その可能性は限りなくゼロに近いと思いますし、九〇パーセント以上がぼくの妄想なんですけど、そういうふうに仮定してみるとなんかおもしろいなあと思って。送り主はぼくが反応しよるんちゃうかなと思って手紙を送ってきて、まさしくそれにのっかって小説に手を入れようとしているわけだから、その状態を相手の側から見れば、

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ぼくはまんまと相手の術中にはまってしまっていることになるんですけど、ぼくはぼくでそれを逆手に取ってうまい具合に小説に取り入れてやろうと思っているわけで、その相互関係がなんかおもしろいなあと思ったりしたんですけど、とりあえずその手紙の相手と共謀する感じで、さっきもいいましたように小説をいい感じで逸脱させていければなあと思っているんですけどね」
 うなずきながらSさんが、「でも実際に、手紙の送り主が実は四十代のおっさんだったとかだと嫌ですよね。あ、でも、そっちのほうが意外性があっておもしろいのかもしれませんけど」といって笑った。
「たしかにギャップがあってネタとしてはおもしろいですけど、個人的には若い女の子のほうがやっぱいいですね。その娘がかわいかったりすると、もっとうれしいんですけど……って、べつに会うわけじゃないんで、容姿や年齢のことはいいんですけど、そうはいいつつも、

やっぱりかわいい娘だったら普通にうれしいですもんね」なんてことをいいながら、やっぱりぼくも笑った。
 現在連載中の小説についての話はここでいったんお終いにし、次回作についての打ちあわせをはじめることにする。てか、それが今回の上京のいちばんの目的であったのであるが、その前の話に熱が入ってしまい、なんだかこっちがおまけのようになってしまった。
 で、次回作の打ちあわせと銘打っているので当然なにかしらの話のネタをもってきておらなければいけないわけで、当然のように主要な登場人物やある程度の展開は考えてきたのかというとそんなことはなくて、前回お会いしたときに「三十路女とその隣に住む中学生の男の子のお話」ってことだけはお伝えしていたのであるが、そこから話が著しく進展させていないどころか、状況はそのころとほとんど変わっていないというのが真相だった。うわあ。と、あわてふためいたのかというとやっぱりそんなこともなくて、

 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ