夏休みがおしえてくれる  |  davinci

第2回

 
中川 充

 
 
 

 
Mitsuru Nakagawa

2

 

ネット上の読者投票を経てデビューした作家・ナカガワのもとに、一通のファンレター(?)が届いて……

 
 
 
 
 
Mitsuru Nakagawa

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

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夏休みがおしえてくれる

 
 
 
 
 
中川 充

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
        第2回

 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ

夏休みがおしえてくれる

夏休みがおしえてくれる

 
 
 
 
 
 
 ヒットしたのは、はてなダイアリーのブログで、二十一歳の文学部に通うcatalyさんという大学生の方(ブログ内のプロフィールによる)の七月十九日の日記。以下、引用させていただく。

 
 八月初旬まで第一回ダ・ヴィンチ文学賞とやらが無料で閲覧できるそうな。ということで数作読んでみた。私は編集長特別賞の『POKKA POKKA』にニヤニヤした。それはもうニタリニタリした。

●中川充「POKKA POKKA」
 ネタバレ全開につき注意。あとめちゃめちゃ長いのでそれにも注意。

 主人公の元に「裕子」と名乗る出会い系サイトの宣伝らしきメールが届くようになった。一見、普通の迷惑メールと思いきや、文末には「レゲエが好きです。アビシニアンズとかボブ・マーリーいいですね☆」みたいな追記があった。気になりつつもメールを無視した主人公に、次の日また「裕子」からメールが届いた。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ

「裕子は読書もけっこう好きなんですぅ。好きな作家は稲垣足穂、色川武大、山田風太郎、あと澁澤龍彦もお気に入りですね。外国文学ではセリーヌ、ドストエフスキー、カフカにハマってまあす★」

 いまどきそんな女おらんやろ!とツッコみつつも主人公は趣味の合うメールの書き手に思わずそわそわ。だがバイトとして出会い系のサクラを勤めているだろう相手にまともに対応しても無駄と判断し、また無視を決めこむ。しかししばらく後、忘れかけた頃にまた「裕子」からメールが来た。

「裕子は、前にレゲエが好きって書いてたけど、いちばん好きなのはプログレなんです。ピンク・フロイドもキング・クリムゾンもいいですけど、裕子はやっぱりイエスかな★ ここ数年はアレアとかオザンナとかバンコとか、イタリアのプログレバンドがお気に入りです。もちろん

ジャーマンプログレも大好きですぅ。」
 
 ここで主人公は思う。もうあかん。ここまで趣味の合う相手──これは運命的な出会いだ。彼は悩んだ末「これを書いているバイトのご本人さん宛」にメールを出す。
 メールの送り主は「たしかにぼくはサクラです。」と時給1000円で働く24歳「ヨシダ」であることを明かした。それから二人はちくま文庫イイヨネーとか河出もイイヨネーとかメールを出し合い、フィッシュマンズを語る(*1:そもそもこの短篇のタイトルがフィッシュマンズだ)。
 いざ会おうという段になって、「ヨシダ」は実は嘘をついていたと告白する。「ヨシダ」はリアルに女であった。
 ともかく、二人は実際に会い、喫茶店でまたCANの紙ジャケとかマグマ19年ぶりのニューアルバムについて語らう。その後、主人公は彼女をバーベキューに誘う。が、ヨシダは音信不通になり──。

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夏休みがおしえてくれる

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

■[BOOKS]疑問
まさかこれはダ・ヴィンチの特集した「文○系女子」との遭遇例を小説化してみたものか!とか思った。結局、ヨシダと連絡が途切れたまま小説は終わる。この賞はジャンルを問わないということもあり、もちろんヨシダ音沙汰なしの真相が明かされないことが悪いわけではない(*2:「あなたの心の中にある思いを、読む者の心に届く小説としてまとめてください。」だそうで)。

 ともあれ作者がヨシダのような女性か、ヨシダのような女性を求めている男性か、ヨシダのような女性に実際に出会った男性なのか、そのいずれでもないのかがちょっと気になる。作者を単純に作品と結びつけるのはよろしくないとわかってはいるが。
 著者は主眼をどこに置きたかったのだろうか。対象として考えている読者はどんな層だ? それとも読者を想定していないのだろうか。

 あと出てくる音楽や本の固有名詞がわからない人も楽しめるのか、これ。という疑問が沸いた。(鳥飼否宇ファンがプログレ好きだらけとは限らないが──ほら、荒木飛呂彦とか萩原一至とか元ネタ知ってた方が楽しめない?)
 それとも非・モテを前面に打ち出してないだけで、佐藤(友)・滝本の北海道勢、森見・万城目の京大勢に続いて大阪モラトリアム文学(またの名を若い駄目な男ブンガク)の登場なのか。

■[BOOKS]推理
なぜヨシダはメールを返してくれなかったのか
 ここで実際にプログレとその辺の作家をこよなく愛する21歳が、ヨシダからメールが返ってこなかった理由を推理してみる。まず、出会い系サクラというインドアでアングラなバイトに従事していたことから考えても、ヨシダはアウトドア派ではない。(*3:部屋でイエスかけながら忍法帖シリーズ読んでるような女が活発だったら驚きだ。)

夏休みがおしえてくれる

 
# ti_zujp『登場人物というか、むしろ作者の方とはある程度話が通じそうではあるわね。フィッシュマンズトリビュートでOOIOOがカバーしてましたよね、とか。そういえば中の人がドラム叩いてるボアダムスは鉄腕アトムのトリビュートアルバムに参加してて、あれは凄いですよね、とか。
 なんか、このどうしようもなく「通じてしまう感じ」を扱ったのは、昔アフタヌーンで四季賞取ってた「孤陋」という作品に近いかも。あれはプログレじゃなくてマイク・パラディナスとかだったけど。』

 ヨシダはただ趣味が語れればそれで良かったのではないだろうか。近場で会ってちょっと遊ぶくらいならば許容範囲だが、趣味を語る以外に交流を広げる気がなかったのではないか。→よって「俺の友達と一緒にバーベキューしない?」みたいなメールに思わず遁走。
 どうだろう、この推察。

 
[コメントを書く]
# ti_zujp 『あなたにはクンフー(妄想力)が足りないわ! これはヨシダには恋人ないし配偶者がいるでFAでしょう。趣味が合わない、ね。』
 
# cataly 『いま何かがわたくしの心に深々と刺さりました。わかってなくて御免なさいお姐さま!』

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 

 19日のレビューに対して意外にもレスポンスがあったので追記
 POKKA POKKA関係。また、いと長し。

>ID:tokkyotyoの方
 この方が昨夜下さったメールの要約(以下)
「バーベキュー→肉を串刺し→セックスの隠喩+友達と、だから3Pを意味。ヨシダは貞操の危機を感じて逃げた。山風には「童貞試験」という短篇があり、これは手紙のやりとりで純潔を推理する話。つまり山風は伏線だったんだよ!」

 な、なんだってー!? かつて(およそ4年前)小生に小川勝己やスレイドを知る契機を与えた氏らしい推理です。下心を疑って連絡を絶ったというのは非常にリアリティのある推理であります。私も真っ先に考えましたし。

 
 
 
 
 
 
 と、ご本人が最初におっしゃってるように長い文章があって、つづけて「翌日の日記」ってとこをクリックすると、つぎの日にもぼくの小説にかんする話題があがっていた。

>向井さま
 私は先の記事の中で、実際は作中で「裕子」とほぼ同等の比重を占めている「バンド関係」には触れませんでした。あくまで自分が気になったところのみで粗筋を作りました。そうした理由は、内容を逐一網羅すると量からしても「粗」筋ではなくなってしまうからです。
 私にはやはり、作品のテーマが判らないのです。そんなものは無く、私小説に近いものなのかもしれません。しかし、私小説や日記文学にしては共感を得にくい(*1:趣味の単語の羅列や「独り言」の所為で普遍性が削がれているためである)ように思います。私も主人公の思考に共感をおぼえませんでした。
 作者は「純粋に吐き出したいものを書き出しただけ」というのが現在の私見です。作者の方は「青春文学」「現代を切り取った」「軽妙なエンターテインメント」等の修辞を受ける気はなかったでしょう。

 
 余談:私の知る関西人(女子)は、常に関西弁を前面に押し出したメールを送ってくれます。これは萌えます。

>tizu_jpさま(19日のコメント欄参照)
 アバンチュールがパートナーの知るところとなり、ヨシダは主人公に会いに行くことが不可能になったという推理ですの!? なるほど、これには想像力が及びませんでした。盲点でした。完敗に乾杯。実にリアリティに富んだ推理です。これが真相かな……。
 この年になっても、恋愛の実在に実感が沸かないような愚生にはこの解答は出せません(笑)

 

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ