タマママーンを探して  |  davinci

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 玄関にはテレビ局が作ったタマママーンの置物が鎮座。

 ここに人気漫画家コロネがすんでますよーーー!と、メガホンで叫んでいるようなものだ。

 その叫びは、ミカにももちろん届き、

「あーーーーーーーータマママーンだーーー」と、勝手に自転車のチャイルドシートから飛び降りた。

 

 お……おい!

 と言う間に、ピーーーンポーーーン!

 

タマママーンを探して

 なんというか、受かる気のないバイトの面接に行く前の感覚だ……。

 店長は今日はいませんといわれたほうがよかった……みたいな……。

 まあ、ダメ人間特有の感覚かもしれない。

 ごめんとうちゃんはダメ人間です、ミカ……。

 と心であやまりながら、自転車を漕ぎ出した……。

 10分もしないうちにコロネの仕事場についてしまった。

 そこそこリッパな一戸建て、門から玄関まで7メートルくらいはある。

 

 もう、ミカのことを置いて逃げ出したかった……。

 が、すぐに応答。

「はーーいどちらさまでしょうか?」

「タマママーンいますかーー。ミカでーーす!ミカの描いた似顔絵テレビで紹介されたよーーーー」

 とどこにその元気があったんだ……と、感心させられるハキハキ声で自己紹介。

 もう逃げられない。とりあえず自転車を置き、ミカの近くへ……。

 そしてひとつミカの大きな誤解を取る必要があった。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

タマママーンを探して

 サインをくれるのは、タマママーン本人ではなく、作者であること……。

 ……が頭の中で、どうやって説明すれば一番いいかまとめているうちに、がちゃ……

 玄関から誰かが出てきた、巨漢の男だ……。

 よく見るとそれは、マルマル太ったタママ……いやコロネだった……。

 よれよれのTシャツ、胸にはコロネのロゴに灰色のジャージ……。

 まさにこれぞ漫画家、といった感じに変形している……。

 視線はミカに向けられ、僕にはまだ気付いていない。

「ありがとねーーータマママーンすきなのねーーー」と、ニヤニヤでよってきた……その変形の仕方に気味の悪さと、漫画家業の怖さを感じる僕。

 玄関では、編集者であろうかスーツのお姉さんが

「コロネさーん3分だけですよーー」

 と注意。

 悔しいが売れているのは事実のようだ……。

 あ……あのコロネくん……と僕が、ミカと視線を合わせるためにかがんでいる丸い肩に向かって声をかける。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

タマママーンを探して

 

 コロネは僕を見て「あ〜〜〜」となんともがっかりな声を漏らした。


「きみか〜ママと来てくれれば僕も目の保養になったのに……」

 と、ファンを目の前になんともな一言。

 とにかくこの場から逃げたかった僕は、

「あのさ、娘がサインほしいって言ってるから友達のと2枚たのむよ……」と。

 たのむよのところは、聞こえるか聞こえないかの大きさで頼んだ。

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

  本当ならここで殴って娘の手を引き、かえるぞ!そのあとお好み焼き屋とかでしょんぼりな娘に、お好み焼きをワイルドに焼く……。みたいなのが僕の理想の展開なのですが。

 
 まあ、もうこれ以上パパ失格もきついので、引きつった笑顔で、

「ミートボールとかよく食ってるんだけどな……」と笑った。

 コロネは僕の冷や汗を見てか、今にも飛びかかろうとかなり迷っている僕の「気」のようなものを感じてか、堪忍してやるか〜〜〜というにんまり笑顔を浴びせた後、反復横とびのようにミカの前へかるくジャンプ。

 するとコロネ「ナニ?2枚ナニ?」ときた。

「2枚、、たのむ」

 ミカはこの様子をじっと見ている。

「たのむ?」コロネがもうひとつ、ふたつ上の上等な言葉を要求。

 プライドはないですが……娘の前……歯をくいしばる……。

 するとコロネ、僕の肩に丸い手をズシッと乗せ、「いいモン食べてないだろ〜〜。顔色わるいよ〜〜」と、ごまんえつ。

タマママーンを探して

「サインだね!いいよ!」

と子供向けの笑顔で対応。悔しいがプロらしい対応だ……。

 するとミカが

「わたしタマママーンのサインがほしいの! ゆーちゃんともやくそくしたの!」

 と、思わぬ反応をみせた……。

「い、、いやお兄さんがタマママーンの……えとーー」とコロネ。

 作者という言葉を使わずに、説明しようとする。ここもなかなかのプロな対応。

「タマママーンにあわせて!」と、ミカはジュースも飲まずに、暑い中ただ自転車のチャイルドシートに乗っていただけだったが彼女にも、ここまでくる苦労はあったようで、少しお怒り気味。

 するとコロネ、両手をくねくねさせ(タマママーンのきめポーズ、それも映画バージョンだ……)

「僕がタマママーンのしょうたいなんだよ〜〜〜」と、横チン見えそうなポーズで叫んだ。

 2秒の沈黙の後、

「う、、うそだーーーー」とミカは完全に怒り顔で叫んだ。

 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 

「ほら、のれ……」と、声をかける。しかしミカは動かない。

「おい……」と肩をつかむと、ミカの肩は小刻みに震えていた……。

 ないている。

「お……おいどうした」と、僕はうつむいたミカの前にしゃがみこむ。

 ミカは

「タマママーンきらい……ぶた……へんなぶた……」と、小さくぶーたれた。

「ぶたにんげんだ……」と。

 あわててコロネ「それじゃみててごらーん」と、娘の画用紙にスラスラ、タマママーンを描いて見せた×2枚。

 その瞬間ミカの動きは完全に止まった。?

「センセー時間ですよーー」

 とスーツの女がコロネを呼ぶ。

 コロネは、よっこらせとその丸い体を持ち上げるようにたちあがり。

 僕にぽつり「めしのタメにオークションとかにだすなよ〜〜〜」とつぶやき、玄関にどしどし戻っていった。

 せみの鳴き声が5、6回静かな住宅地に響いたあと、画用紙を両手で抱えるミカの背中越しから、

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

タマママーンを探して

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 おもわず吹き出した僕は、

「そうだよ、あれがタマママーンの正体なんだよ……だからパパはタマママーンなんて見るもんじゃない!って言うんだよ」と、完全に親失格、ダメ人間な一言をかけた。

 するとミカも、

「もう観ない! きもちわるい!」

 といって涙ながら笑った。

 その顔を見て僕も何年かぶりに、こみ上げてきてしまった。そして帰り際、コロネの仕事場に向かった。

「せっーーーの!ぶたーーーー」と二人で叫んでから帰った。

 3日後。

 結局ミカはタマママーンを観て、お風呂ではタマママーンのテーマ曲を熱唱……。なんとも先日のことをケロッと忘れている模様。

 しかしその日幼稚園から持って帰ってきた。「私の好きなおもちゃ」というテーマの絵には、僕の顔が描いてあった……(おもちゃ扱い?……でもまあ……幸せ……)。

 ミカを寝かしつけた後、家のリビングでその絵をニマニマみて癒されていたのですが、妻帰宅後のお叱りの言葉で現実に引き戻される……。

「ちょっとーーーシャンプー買ってきてっていったよねーーーー!?」
           ー END ー
           ー END ー

タマママーンを探して
  • 著者:石原まこちん
作 成 日:2008 年 12月 04日
発   行:石原まこちん
BSBN 1-01-00021542
ブックフォーマット:#429
 

石原まこちん●いしはら・まこちん
1976年東京都県生まれ。1995年『SENTOUS』にて漫画家デビュー。著書にマンガ『THE3名様』『ファミレス以外! 石原まこちん短編集』や、エッセイ『ぼくのニート道』などがある。『SPA!』にて自伝的マンガ『GENGO』やエフエム東京携帯サイト『ミュージックヴィレッジ』にて音楽コラム『GENGOレコーズへようこそ』を連載中。

Makochin Ishihara

石原まこちん

 
 

売れない漫画家で実質ニート状態の僕の、娘・ミカが最近恋をしているらしい。

幼稚園に通うミカの初恋の相手は、なななんと僕の憎きライバル漫画家の……!

 
 
 
石原まこちん

 
 
 
Makochin Ishihara