タマママーンを探して  |  davinci

 

 
「あ!ショー君ショー君! 紹介したい人いるからこっちこっち」

と手招き。(あ、私顔、性格に似合わず「翔」というなまえであります)正直やっとこさ見つけたこの安住の地を離れたくなかったのですが、バイトであろうが「編集部の方」に嫌な印象は与えたくないので、

「はいはい!なんざんしょ〜」といった具合に小走り。

 ホールの真ん中あたりのにぎやかな席へいざなわれる。
 そこにはテレビで見たことある、レジェンド手前の漫画家が数人、いつか自分もまとってみたい「余裕」のオーラ(わかりにくいと思いますがタワレコのポスターから感じるようなもの)を発しながら雑談していた。

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

(まあ、ペリー記者がカッコいいかどうかは個人差はあるとおもいますが)。

 こいつとの出会いは7年前、僕が25歳の時の出版社の忘年会だった。

 僕は14回目の投稿にして、やっと努力賞をもらった。

 カッツカツの新人。まだ受賞して半年。ホテルのホールを借りきっての忘年会、右も左も知らん人……。

 ただただ、嫌な印象をあたえないようにニコニコしながら、なるべく人目につかないほぼ死角の大きな柱の影で突っ立っていた。

 すると編集部のバイトの人が、

 その受賞後、彼は何度か読みきりが載り、そこそこの人気を獲得、漫画賞の応募ページに「ぼくもこの賞からとびだしました新人です!」

 というあおりの横に、顔入りの写真が掲載されたこともあった。

 この忘年会の頃、僕はボツをくらいまくり、漫画家テンション的にはどん底だった……(今もどん底に近いですが……)。

 そんな中……、

「あ、すいません、すいません! 彼、コロネくんと同期の新人の小川翔くん!コロネ君おぼえてる?」

とバイトさん。

 

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 その雑談のメインディッシュになっていたのが、レジェンド手前漫画家の中央にいたコロネ……スネ夫のように、笑顔でいたのが彼だった。

 なんというか僕には出来ない年上にもてる笑顔で……かわいがられている……。

 コロネは同じ雑誌の同じ月に、僕が14回目に勝ち取った努力賞よりいっこ上の賞、佳作を1回目の投稿で受賞した男……。(忘れもしないのが、彼が23歳だったということ、4つ下のやつが1回目で受賞……というショックはでかかった)

 いわば同期……なのですが、この漫画の賞に授賞式みたいのもなく、ただ担当の編集者から激励じみたコメントを電話で頂き、賞金5万円が銀行に振り込まれただけだったため、お互い会うことはありませんでした。

とコロネの作品で一盛り上がり(もともとコロネはこういったギャグを描いていました)。

「あ! じゃ……サインサイン!」と、こちらにとってもかなり「なんだなんだ」の流れに……。

 そして悲惨な2次会。

 僕はほしくもないコロネのサインが描かれた忘年会の招待状を握り締め、コロネのファンとして、数人のアルバイト編集者と、コロネを囲んで、彼の夢を延々きかされたのでした……。

 コロネはレジェンド手前の漫画家の前で見せていた、あのセールス笑顔は消え、しかめ面、というかホスト面、足を大きく組み、

「……あ……ども」よく分からない紹介に、こちらも困惑しながらも会釈そこそこ盛り上がっていた会話を遮っての紹介に、レジェンド手前「なんだなんだ」な感じになっていると、一人の中堅漫画家が

「あ、コロネ君のファンでしょ!?」とふくらんだなんだなんだ空気に針をさした。

 僕は否定することなく「へへへ」と笑った(まあ、これも嫌な印象を与えたくなかったので)。

「この前載った、あれ良かったもんな〜〜」

「あ、あれでしょ! 陰謀論者の途中下車の旅!」

「そうそう!『あのビルの並びは洗脳効果があるーー!』みたいなの!あれは連載だよ!」

 
ブンゲイ ダ・ヴィンチ

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「昔かなり悪やっててね〜」からはじまった(タメ口で……)。

 悪やっててという発言がすでに現在進行形で「悪」である……と、心の中で突っ込みながら、僕は周りにいた編集者に嫌な印象を与えないため、「へ〜」「は〜」と関心あるそぶりを見せながら、にこにこそれをきいていた。

 あの忘年会からだ……コロネが週に一度僕をさそっては、こいつの仕事場で(といっても実家、両親は近所に新築した家に住み、あいた家を仕事場に使っている……。まあそこそこのボンボンなわけでありまして……)

「おれはさ……いつか自分の漫画でよ世界の、小指の先くらい変えたいとおもってんだよ……」的なコロネ節を、4つ上の僕が延々朝まで聞かされるようになったのは

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

……ファンではないというのは、結局最後まで言い出せずに……。

 このコロネの回想は自分を奮起させるため漫画をかくまえに必ずする儀式だ。

 しかし気づくといつも3時間くらいたってしまっている&イライラが結局つのりそのイライラ処理に一時間、中古で買ったRボタンがきかないPS2でバイオ。

 すすまない原稿、そして、朝。

 翌朝、耳をつんざく犬の鳴き声で飛び起きる。

 枕元に三匹の赤毛の犬のぬいぐるみ。おしりからはコード、コードの先にはボタン、それをニカニカの笑顔で持つミカ、

 

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ブンゲイ ダ・ヴィンチ

『パパおきた〜』

 まだ7時……。

 寝たのが4時半……。

 『おきてなーい』と僕は枕に顔を押し付ける。

『おきてるじゃん、目あいてたじゃん、しゃべってたじゃん』とミカ。

「ねごと〜 」と言って今度は布団にもぐる。

 するとミカは、わくわくが胸からとびでそうな声で、

『じゃ〜おこしてあげるね〜』といってスイッチオン!

 三匹の犬が一斉にワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン。

「わかったわかったおきたおきた〜」

 今日は土曜日。

 幼稚園はお休み。

 妻はキッチンでDSをいじりながら、パンをやいている(僕の)。

 朝のニュースを一通りザッピング。

 ふとミカをみるときちんと正座してケチャップにおぼれているオムレツをたべている、いつもはDSをさわりながら食べているのに。

とミカが僕の真後ろから肩にあったかい手を乗っけてきた。

「なに〜どこいくの〜土曜日はどこもこんでるよ〜 」

と僕。

「タママママーンのとこだよ!」

 的中だ、いやまぁ的中もなにも分かってはいたけど……。

「タママママーン?」

「うん! タママママーンにサインもらいにいくの!パパ友達なんでしょ!」

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

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 なぜだ、行儀がいい。

 ミカのTシャツがタママママーンだということに気づく、まさか。

 「ごちそーさまー 」

 いつもはしない食器片付けをするミカ。いやな予感……。

 突然なんだか体がだるくなってきた、狭い家で無理だとわかっていながら、ドラゴンボールよろしく気を消してみる、その三秒後、

「パパっいこ」

「は、は〜い」

しずかに反省。

 その横でミカは

『わたし夢みてないよー! 起きてるよー! タママママーンにあうために六時におきたよー』と一人主張。

「いってきなさいよ! 昨日洗い物雑だった罰!」と妻。

 ミーンミーンミーン。

 セミが最期の力をふりしぼって鳴いている。アパートの狭い駐輪場からママチャリを出し、タマママーンの人形とサインを描いてもらう子供スケッチブックを胸に抱えたミカを後ろにのっける。

 ニカッと笑いかけたミカに思わずこちらも、笑顔がこぼれたのですが……、

「やめといた方がいいぞ〜、あいつなホントはスッゴいいやな……」

といいかけたところで

「ショー!」

妻様登場。

「あんた自分の夢がかなわないからって子供の夢こわすことなくない? 」

 朝からメガトン級に厳しいお言葉 。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

タマママーンを探して

 

 座ったサドルが焼けるように熱い……。

 じゃーごじゃーごと漕ぎ出したペダルはかなり重い、リサイクルショップで6800円で買った中古だからという理由だけではなく、精神的な方の理由 がでかい、愛する娘のためでもあるが、あのにっくきコロネに頭を下げに行くというのが、ダンベル並みの重みになって両足にぶら下がっている。

 それに加え家事をしている以外はテレビの前にいる時間が長い僕、ワイドショーにより熱中症の危険を毎日すりこまれているせいもあり、命にかかわるんではないかともかんじてしまうという心配もボウリングの球ぐらいの重みになっている。

 しかし、久々にぶち当たってしまったこの人生の壁を

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

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飛び越すことで、きっと娘が僕のことを「くさいもの扱い」する日は数年遠ざけることもできるだろう、きっと……。

 そう自分を盛り上げでもしないと、この残暑の炎天下漕いではいけない……。

 朝の10時……、コロネの家までの約5キロ。

 駅に向かう土曜日も働くスーツの方々を「すいません、僕無職で……」という気持ちをこめ、よけながらシャッター通りに近い地元の商店街を抜けて、大通りに出る。

 ミカは後ろでタマママーンのテーマソングを最近覚えた口笛で吹いている、娘の成長に目を細めているわけですが、一方でタマママーンのテーマ曲というのが、僕のハートを針葉樹の葉でつつく程度に傷つける。