タマママーンを探して  |  davinci

タマママーンを探して

 
Makochin Ishihara

 
 
 
 

 
 
 
 

 
石原まこちん

読み切りアンソロジー

 
 
 
 

 
 
 
 
石原まこちん

 
タマママーンを探して

読み切りアンソロジー

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 
 
 
 
Makochin Ishihara

読み切りアンソロジーシリーズです。新しい小説が今後も登場してきますのでお楽しみに!

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売れない漫画家で実質ニート状態の僕の、娘・ミカが最近恋をしているらしい。

幼稚園に通うミカの初恋の相手は、なななんと僕の憎きライバル漫画家の……!

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 
 「ミカぁー風呂はいるぞー」

 夜7時半夕食を食べ終わったあと、決まって響く自分の声は、すこしイライラしている。

 大好きなアニメのある木曜日の7時は特にだ……。5歳の娘・ミカはテレビに釘付けになるって動かなくなるのだ。最近お気に入りのおもちゃ入り入浴剤で誘ってもダメだ。

 そんな時はとりあえず ミカの幼稚園の上履きを風呂場で洗ったりしてアニメが終わるのを待つ。ガシャガシャガシャ。上履き専用の洗剤で洗う、これがおもしろいほど綺麗におちるので、楽しい、いや正確には、こういう「主婦な仕事」自体が楽しくなってきたのかもしれない……。

 妻はお仕事……。お帰りになるまでに、ミカを寝かしつけとかないと、みけんのシワが深くなる、恐怖だ……。

 僕は上履きを洗い終わった後、もう一度ミカを呼ぶ。

「まだ終わんないのーテレビ〜!お風呂さめるよー!」

 (追い焚きは禁物)

 8時。

 やっとミカが風呂にとびこんでくる。

「あーにゅーよくざいはいってなーい!」と膨れ面、

「7時までにはいってきたら入れてあげたのに〜」と僕。

 するとミカ、わかってんでしょ!といった態度で「だってもくようびはタマママーンがあるからだめなんだもん!!」

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 するとミカ、わかってんでしょ!といった態度で「だってもくようびはタマママーンがあるからだめなんだもん!!」と腰に手を当て仁王立ち。

 一瞬うごきがとまる。

「あっこのにゅーよくざいつかっていい?」と娘が棚に手をのばす。

「あ、それはだめだママ専用! 800円くらいするやつなんだよ! だめだめ!」

 あわててとめる。

「ぷ〜〜!」

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 イライラさせるが我が子ながらこの膨れ面……。かわいい……。

 お風呂からあがり「こどもりんごジュース」をいっきに2本のんだあと、ミカは歯を磨かずテレビの前で寝てしまった。

 ドライヤーをかけないと妻の眉間のシワ圧力がかかるのだが、僕はミカのかわいい寝顔をみて、起こすことはできず、布団に移動させた。

 その手にはタマママーン、娘の心を奪ったタマママーン、にっくきタマママーン……。

 9時妻帰宅。

 一通り<アレやってないコレやってない>のおしかりを、「へーへーすいませんごめんなさい」でやり過ごした後、妻におビール。

 テーブルの上には、ミカが描いた絵がちらばっている。

『あ、ただいまきれいに』とジイヤのようにあわててかたづける。

 数枚重ねたものを、テレビの横に置こうとすると、妻がそれを横から「ピッ」と奪った。 

 一番上にあったのが、タマママーン……。

(まあ、どれもタマママーンのキャラなのですが……)

「まさか……」と僕はこの酸欠手前の息苦しさから逃げるため、テーブルにあった、コップやイロイロをまとめキッチンへ。

(キッチンといってもせまいアパートなので3歩圏内にありますが……)

 だまって再び出た食器をあらう。

 ちなみに「コロネさん」というのは、タマママーンの作者……。なんというか……その、僕と彼とは知り合いだ。すると妻は、その食器をあらう音を貫くような、酒やけしている地に響く声でこういった。

「コロネさんサインくれるかな〜〜〜〜」

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

「人気だねー……」妻はソファに座りビール片手に溜息といっしょにポツリ、

「……のようですね……」と、その横でシモベのように正座のぼく。

 ……つけたテレビの音が少しうるさく響く。

 なんか緊張、もちろん恋心ではなく、またなにかしかられるのか?というもの。

 小さな緊張の波が4回ほど寄せては返した後……。

「あんたさ……コロネさんと連絡とか取ってるの」

と妻……。

「まさか……」と僕はこの酸欠手前の息苦しさから逃げるため、テーブルにあった、コップやイロイロをまとめキッチンへ。

(キッチンといってもせまいアパートなので3歩圏内にありますが……)

 僕は聞こえないフリでカチャカチャカチャ。

「なんかさ〜お店の店長のチビが大好きでほしがってんだって〜タマママ〜ン」

 僕は食器の洗う音に隠れるような声で、

「や〜〜〜だね〜〜〜」とアカンベーをした……。

 すると今度は背中越しに、

「わたしもほしーーーーーー!」

 というお酒が染みた事のない声帯から発せられるかわいい声。

 ミカだ……。

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 目がバッチリ開いている。どうやら夫婦の会話を全て聞いていた様子。

「パパーー、パパはタマママーンとお友達なのーーー!!」

 と、12時を回っているのにもかかわらず、バラエティに出てくる売出し中の芸人なみの元気。

「い……いいから寝なさい!」と僕。

 いつもなら一番怒る妻が、このときは、

「ミカもほしーもんねーーーー」と参戦。

 ミカのことを後ろから抱きしめるようにして、しゃがみ、こちらを見た。

 ミカは妻にそのお皿のようなまん丸おめめを向けて、

「ねえ!パパおともだちなの!ねえ!」

「友達も友達!ミカとれいなちゃんくらいの親友よ!」

「わーーーーい!」とミカ。

「明日行く!明日行く!ぺペロンランドにいくーーーー! ぺペロンランドのお姫様になるんだ〜〜〜!」と、お祭り騒ぎ。

(ぺペロンランドとはタマママーンが住んでいる不思議な町の名前である……タマママーンはその町の王子様——ってわかる自分が嫌だ、まあ、要するにこの発言は「タマママーンと結婚する!」という意味なわけです)……。

 

タマママーンを探して

ブンゲイ ダ・ヴィンチ

 狭い部屋をクルクル駆け出した。

 それを尻目に、妻はニヤリと僕を見て、

 「よ、ろ、し、く」と笑った。

 その夜、家族みんなが寝静まったあと、僕の時間がやっとこさ始まります。

 寝室のドアをしめきり、リビングで仕事の用意。原稿用紙にインクにペン、定規……。

あ……原稿用紙といっても、漫画原稿用紙です。

 そう僕はいわゆる[売れない漫画家]というやつで、妻に食わせてもらっている、というやつです。

ブンゲイ ダ・ヴィンチ
 

タマママーンを探して

 そう……それが娘の心を奪っている、にっくきタマママーンの作者、木の上コロネなのです。

 まあ、コロネといっても、本名は森康太。

 コロネといっても外見はなんというか、ほめているような言い方で嫌なのですが、ジャニーズ系にビジュアル系バンドの黒っぽさを30%加えた感じ……。身長177センチ。

 性格はドラマとかで出てくるモテ男にスネ夫を少々……よくわかりませんが、とりあえず僕のような学校のクラスで底辺でこそこそしていたような男子が嫌うテイストが全て入ったような男です……。

 ちなみに私は、CBSドキュメントのペリー記者に似ていると昔言われたことがあります……。

「いつか売れてやる!」と意気込み続けてはや10年……妻は僕が売れるのを半分あきらめ、勤め先のお店でかなりの頭角をあらわしてるようです。

 僕も男32歳。

 意気込み続けてるのにつかれはじめたのか家事が楽しくなってきたころ……。正直漫画にも気合が入らないのですが、漫画をかいていれば、その「いつか」がいつかやってくるのだと信じ、こうして深夜カリカリ描いているのです。

 両親は「30越えて夢追っかけてるんじゃないわよ!」といいますが、僕の友人、いや知り合いで……その「いつか」を現実のものにしたやつが一人いるから……なんといいますか、諦めがつかないのです。