ツクツク図書館  |  davinci

紺野キリフキ

 

 
 
ダ・ヴィンチ・ブックス ためし読み

 

  

Konno Kirifuki

 
 

ツクツク図書館

 
 

 
 
Konno Kirifuki

 

紺野キリフキ

ツクツク
図書館

 
 

※実際の書籍は縦書きです。横書きではありません。
BCCKSためし用にデザインを変更しております。

 メディアファクトリー
ダ・ヴィンチブックス

「うちはね、だめな図書館なんだよ」
つまらない本しか置いてない、ツクツク図書館。
職員も建物もへんてこぞろい。
弱気な館長、運び屋、語学屋、戻し屋ちゃん……
そこにある秋、ひとりの着ぶくれ女がやってきた。
女は働かないで、わがまま放題。
だけど、図書館にある《伝説の本》の話を聞いて……?

ちょっとシュールで、ぷっと吹き出しちゃう、へんてこな物語。
癒されたい、笑いたい、楽しい気分になりたいあなたに。

        §

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プロローグ

 

ツクツク図書館

「はい」
「読んでるだけでいいの?」
「ええ」
 本を読むこと。
 それがツクツク図書館職員の仕事だった。
 女はにんまり笑った。へんな女である。まだ秋の終わりだというのにコートを着込み、まるまるとふくれあがっている。
 そんな女が満面の笑みで館長に告げた。
「働かせてください!」

 ツクツク図書館は一人の着ぶくれた女を雇った。
 それは秋の終わりの出来事。
 静かな図書館がちょっとにぎやかになっていく、秋の終わりの始まりだった。

  
「ここ、図書館ですか?」
「ええ」
「よかった」
 女はコートに手をつっこむ。着ぶくれた女である。
「これ見てきました」
 と、くしゃくしゃになった紙を差し出してきた。「職員募集」の貼り紙だった。どこかに貼ってあったものを勝手に剥がしてきたらしい。
「まだ募集してますか?」

 町のはずれに図書館がある。名前はない。看板にはただ「図書館」と書かれている。そこが筑津区だから《ツクツク図書館》と呼ぶ者もいる。

「これに書いてある仕事内容って、ほんとですか?」
「ええ」
「ほんとに、読むことが仕事なの?」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
おもらしの短編小説の部屋

「ただいま」
「館長…」
「どうしたんです、あなた。ていうか、なんですそれ?」
「館長、なんで今日に限って外出だったんですか」
「え?」
「大変だったんですよ?」
 館長がいなかった今日。ツクツク図書館はちょっとばかり大変だった。
「何かあったんですか?」

 ツクツク図書館に大変なことなんて、めったに起こらない。ここはあまり人気のない図書館である。いつも職員がおとなしく本を読んでいる。そんなツクツク図書館に珍しく一人の利用者がやってきた。
「あのう」
「はい」

ツクツク図書館

 

「ぼく、図書館初めてなんですが」
「はあ」
「どうすればいいんでしょう」
「え?」
 妙な男だった。女は無愛想に訊く。
「何しに来たんです?」
「工場長に言われたんです」
「工場長?」
「ええ。工場長に図書館に行ってこいって言われたんです」
「なんて」
「『おまえみたいなばかは、図書館にでも行ってこい』
 って」
  沈黙。
  静かな図書館がよりいっそう静かになった。
  男は小声で言う。
「ぼく、どうすればいいんでしょう」

ツクツク図書館

 たとえば《日本風の小説の部屋》、または《アメリカ的小説の部屋》あるいは《みみずたちの小説の部屋》。
 女は次から次へとドアを開けていった。あごだけで(こっち)と男を奥へと誘う。
  ガチャリ、と開けると部屋がある。ガチャリと開けるとまた小部屋。ガチャリ、ガチャリ、ガチャリ。
  部屋は無数にある。
  やがて女は立ち止まる。この部屋は行き止まりである。いったん戻らないといけない。
「(戻るよ)」
「これでおしまいですか?」
「(ちがう)」
「いったい、何部屋あるんですか?」
「(知らない)」
  あいかわらずあごだけで話し続ける女。そしてそれを理解する男。女も男も、なかなかやる。
「あの、質問してもいいですか?」
「(なに)」

            ⊿

「…それは大変でしたね。で、あなたどうしたんです」
「どうしたもこうしたもありませんよ」

 とりあえず、女は案内した。(ついて来て)と言わんばかりにあごで指図する。男もおとなしくついてきた。あごで使われることには慣れているようだ。黙って女の後を追う。
「(こっち)」
「はい」
「(迷わないでね)」
ガチャリ、とドアを開ける。
女はあごだけで案内し続けた。
  この図書館のつくりは普通とちがう。まずここには大きなフロアというものがない。小さな部屋がたくさんあって、それぞれの部屋にそれぞれの本が詰まっている。

 

ツクツク図書館

「だから、うちにはそもそも『ためになる本』なんて
 ないの」
「え?」
「…あんた、やっぱ知らなかったんだね」

            ⊿

 町には、二つ図書館がある。
 立派な図書館と、だめな図書館がある。

            ⊿

「うちはね、だめな図書館なんだよ」
「だめ」
「うちにはおもしろい本が一冊もない。全部が全部つまらない」
「つまらない」
「そう。わたしもびっくりしたんだけど、ここはつまんな

「ここ、ずいぶんたくさん本があるみたいですけど、ぼくはどれを読めばいいんでしょうか」
「(知らないよ)」
「図書館のひとなのに知らないんですか?」
「うん?」
  男の無邪気な質問に、少々気分を害する女。ばかにばかにされると腹が立つ。
「わたしが知るはずないじゃん、あんたの読みたい本なんて」
「でもぼく、早く本を読みたいんです」
「どんなの読みたいのさ」
「ためになる本です」
「ためになる本?」
「はい。ぼく、今まで本を読んだことないんです。だから、実際けっこうばか気味でして。《ためになる本の部屋》ってありませんか?」
「ないよ。だいたいうち、小説しか置いてないし」
「小説でもいいんです。ためになれば」

 

ツクツク図書館

「おしっこしたくなりました」
「…あっち」
 と、右手のドアを指さす女。男は内股でよちよち走り出す。今にももらしそうな雰囲気である。その背中を見ながらまた「はあっ」とため息をつく。ここに勤めて数週間、そろそろいやになってきた。読むだけでいいとは聞いていたけれど、あるのはつまらない本ばかり。たまに来るのも、ばかばかり。
   ガチャリ
「あれ?」
 と、別のドアから戻ってくる男。
「トイレ、ここですか?」
「ちがう、あっち!」
 と、右手のドアを指さす女。首をかしげて走る男。やっぱりばかである。トイレにたどりつくことすらできないらしい。再び女のため息。「はあっ」そして再び、
  ガチャリ
「あれ?」

い本しかない。だから誰も来ない。たぶんあんたの工場長さんもね、あんたには中央図書館に行ってほしかったんだと思うよ。うちはちがう。うちに来ても何の役にも立たない。だってだめだもん」
「だめなんだ」
「だからもう帰んなよ」
「…むりですよ」
「なんで」
「もう、来ちゃいましたし」
「だから中央図書館行きなって」
「バス賃持ってないです」
  はあっ、とため息をつく女。全然会話にならない。ばかと話してもらちがあかない。まるでこの図書館の本のようである。なにやら書かれてはあるけれど、何を言いたいんだか全然わからない。おまけにときどき、突拍子もないことを言い出したりもする。
「あの、お姉さん」
「なに」